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風しん


 

病原体は?

 

 病原体はトガウイルスに属する風疹ウイルスです。風疹ウイルスは、感染した人ののどの粘液から、発疹出現の1週間前から2週間後までの間、分離されます。

 

 潜伏期は、12-23日です。症状はしばしば穏やかで、風疹ウイルスに感染した人の内、30-50%は、症状がはっきりしません(不顕性感染と言いますが、ちゃんと免疫がつきます。他の人を感染させることもあります)。こどもでは、通常、赤い発疹が、最初のはっきりした症状です。風疹ウイルスが侵入してから通常14-17日後に赤い斑状丘疹が出現します。年長児や大人では、この赤い発疹の前に、微熱・気分不快・上気道炎・リンパ節腫脹といった症状が、1-5日前から出現する場合があります。赤い発疹は、顔に最初に出現し、四肢へと広がっていきます。かゆみを伴うこともあります。赤い発疹は、麻疹より赤色が薄く、癒合しません。赤い発疹は、熱いシャワーを浴びたりすると、目立ちます。赤い発疹は、24時間で出そろいますが3(-5)日間ほど見られて消えるため、欧米では、風疹のことを「3日はしかthree-day measles」ということがあります(これに対し、欧米では、麻疹のことを「9日はしかnine-day measles」ということがあります)。

 リンパ節腫脹は、発疹が出現する1週間前から始まり、数週間持続します。耳の後ろ、首の後ろ、後頭部下ののリンパ節が、通常、腫脹しますが、大人でははっきりしない場合もあります。頭を洗ったり、髪の毛をとかしたりしている時に気づく場合があります。

 

 

 風疹ウイルスに感染した者の鼻やのどからの分泌物の中に風疹ウイルスが含まれます。そこで、風疹ウイルスに感染した者が咳をすること等によって生じた飛沫の中には風疹ウイルスが含まれています。この飛沫や鼻やのどからの分泌物がものの表面に付着して、手指を介して鼻や口の中へ運び込まれることもありますが、風疹の感染の多くは、この飛沫を吸い込むことによって起こります。風疹ウイルスは、鼻・咽頭部の粘膜に付着・侵入し増殖を起こします。この5-7日後に、ウイルス血症(ウイルスが血液中に観察される状態)が起こり、風疹ウイルスが血液の流れに乗り、全身を巡ります。妊娠早期の母親の感染で起こる先天性風疹症候群では、このとき、胎盤を通過した風疹ウイルスによって、胎児の感染が起こります。

 合併症として、関節痛・関節炎は、大人の女性の約70%で見られますが、大人の男性やこどもでは、まれです。指、手、膝の関節が痛むことが多いです。関節の症状は、発疹出現と同時か、やや遅れて出現し、1か月も続くこともあります。

 

 合併症として、脳炎は、風疹5000例に1例の確率で起こりますが、大人の女性で起こりやすいです。脳炎になった場合の致死率は0-50%です。

 血小板減少性紫斑病による出血が風疹3000例に1例の確率で起こりますが、こどもで起こりやすいです。

 

 1964-1965年にアメリカ合衆国で、風疹の大流行がありました。患者数は1250万人に達しました。このときの合併症の発生状況を概数で示すと、先天性風疹症候群が20000人、流産(人工・自然)11250人、新生児死亡2100人、脳炎2000人等でした。先天性風疹症候群20000人の内訳は、耳が不自由な児11600人、目が不自由な児3580人、精神発達面で障害のある児1800人等でした。耳が不自由な児が多いですが、母親が妊娠3か月以内に風疹に感染した場合には、他の障害も合併している場合が多いです。先天性風疹症候群の目の障害としては、白内障、緑内障、網膜症、小眼症等があります。先天性風疹症候群の心臓奇形としては、動脈管開存、心室中隔欠損、肺動脈狭窄等があります。先天性風疹症候群の神経学的異常としては、小頭症、精神発達面での障害等があります。先天性風疹症候群の他の異常としては、脾臓腫大、肝炎、骨の異常、血小板減少性紫斑病等があります。先天性風疹症候群の合併症は、2-4歳になって出現する場合もあります。先天性風疹症候群の児には、こども時代に糖尿病になる児もいます。

 母親が妊娠の早期に風疹に感染すると、胎児の死、流産、死産、早産、児の先天奇形等の異常を起こす可能性があります。妊娠12週未満での感染では、85%で何らかの影響を受けますが、妊娠20週以降の感染であれば、児の先天奇形はまれです。

 

予防のためには・・・

 

 風疹にかかった人は、職場や学校を休んで、通院以外は外出を控えましょう。学校保健法での登校基準は、「紅斑性の発疹が消失するまで出席停止とする。なお、まれに色素沈着することがあるが出席停止の必要はない。」となっています。

 風疹には予防接種があります。かかりつけ医に相談しましょう。

 風疹のワクチンは、生ワクチンで、接種を受けた人の鼻・咽頭部の粘液からは、ワクチン・ウイルスが検出されます。それにもかかわらず、接種を受けた人の周囲の人にはワクチン・ウイルスは感染しないとされています。しかし、例外もあり、接種を受けた母親が授乳している場合、乳を飲んでいる赤ちゃんには、ワクチン・ウイルスが感染することがあります。そのような場合、赤ちゃんには、赤い発疹が出現したりしますが、重い合併症の報告はありません。

 妊娠中の女性あるいは、今後2ヶ月以内に妊娠する女性は、風疹予防接種を受けてはいけません。ワクチン・ウイルスが先天性風疹症候群を起こす可能性を考えてのことです。

 風疹の免疫があるかないかは、血液検査(風疹抗体検査)でわかります。風疹に以前かかったことがあると思っていても、赤い発疹が出る他の病気を間違って風疹と思い違いしている可能性もあります。また、1回の風疹予防接種でしつかりした免疫を獲得できるのは、9割程度の人です。先天性風疹症候群を予防するためには、将来の妊娠を考えている若い女性は、早めに血液検査(風疹抗体検査)を1回受けて風疹の免疫を確認しておいた方が良いでしょう。アメリカ合衆国では、風疹予防接種は、MMRワクチン(麻疹・風疹・ムンプスの混合ワクチン)の形で、1歳の誕生日を過ぎた時点で1回と、就学前の1回との、計2回受けることになっています。

 風疹ウイルスに感染した者の鼻やのどからの分泌物の中に風疹ウイルスが含まれます。この鼻やのどからの分泌物が付着したものに触れて、手指によって自分の鼻や口の中に風疹ウイルスを運び込むことを、よく手を洗うことによって防ぐことができます。風疹ウイルスを他の人からもらわないためにも、風疹ウイルスを他の人にあげないためにも、普段から、自分の鼻や口に触れる前後には、よく手を洗うことを習慣付けておくことが大切です。

 


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